思想の読み書き

思想と哲学

主題化されたものの認識(1)

レヴィナス『全体性と無限』を読んでいる。以下引用。

 

主題化されたものの認識は、事実についてはつねに可能な神秘化に対して絶えず繰りかえされる闘争にすぎない。

熊野訳、岩波文庫 上 114ページ

 

ここで神秘化と訳された原語は、mystification だった。

 

La connaissance du thématisé n'est qu'une lutte recommen­ çante contre la mystification toujours possible du fait; à la fois, une idolâtrie du fait, c'est-à-dire une invocation de ce qui ne parle pas, et une pluralité insurmontable de significations et de mystifications.

p.60

 

合田訳では、歪曲としている。

 

主題化されたものの認識は、つねに起こりうる事実の歪曲に対してたえずくり返される闘いにすぎない。

合田訳、国文社 85ページ

 

合田訳の方が理解できる。

 

ここで主題化されたものの認識とは、事物を対象化してとらえる、いわゆる客観的な認識のこと。

客観的認識が、相対的なものにとどまること。

科学的知識の正しさを絶対的に保証する根拠は無い、と論じる文脈。

したがって、客観的事実とは、つねに歪められる可能性がある、ということだろう。

 

いくつか見た限り、仏語の辞書では、欺瞞、ペテンという意味という意味を記載し、神秘化という意味は載せていない。

 

熊野訳は 、マルクスを踏まえているのかもしれない。

意訳として、訳者の解釈が説明がなされるべきところだと思われる。

 

(続く)