思想の読み書き

思想と哲学

増田四郎と随想全集

いままでこのブログでふれてきたオンライン読書会では、その後カントを読んだりしていたが、紆余曲折あって、今はフロム『自由からの逃走』を読んでいる。

その関連でヨーロッパ中世の歴史について学び直したくなり、20年ぶりに増田四郎の本を手に取った。

大学生時代の教養課程で西洋史の授業を受けていて、課題に取り組むなかで氏の中世都市論に触れた。その名前を忘れなかったのは、著述の鮮やかさが印象深かったからだろう。


検索してみると、今住んでいる自治体の図書館に、尚学図書という出版社から出た『随想全集』という叢書が収蔵されていて、その5巻が、「貝塚茂樹、増田四郎、柳田國男集」というものだった。

増田四郎という人は、こういう並びに載る人だったのかと印象を新たにした。

50年ほど前の本だが、叢書の月報が、綴じて留められることもなく、ページの間に挟まったままに残っていた。

そこで、中田祝夫という国語学者が増田四郎の思い出を書いていて、これがまた実にしみじみと味わい深い読み物だった。

旅行中、片田舎の温泉宿で偶然出会った若者が増田四郎の信奉者だったという話から、同郷の増田四郎が奈良の山奥の村々でいかに秀才として知れ渡っていたかを語り、今は学者として引け目を覚えると述べている。

ネットで軽く調べると、中田祝夫という人も学者としてとても立派な方で、そういう人にも引け目を感じさせるほどの存在感があったのが増田四郎という人だったのだなと思う。

地道な歴史家というイメージを持っていたけど、思った以上にスケールの大きな人だ。

 

この随想全集に収録された増田四郎の文章は、戦前から戦後にかけて日本の学術を担った人の篤実な人柄が偲ばれる、柔らかな語り口の文章だった。

なかでも、いちばん印象に残ったこと。

戦後、ヨーロッパに留学するのに、船旅をしたと書いている。

そして、船旅の途中に、日本の商船が輸出する車を積んで航行するのを見たと書いていた。

海外への船旅といえば戦前のことというイメージを持っていたので、50年代というのはそういう時代だったのか、と思う。

今読むと、日本の現状を正しく予見しているような、先見的な展望も記されているという感想が残る。


増田四郎というと、自分にとって、祖父よりも上の世代の偉大な学者というところだが、日本の近代について振り返り手探りするための道標を残してくれているように思う。

この人が書き残したものを、コツコツと読んでおきたい気持ちになって関連の書籍など、いくつか注文するなどした。


という話はとりあえずここまでにして、このブログについて一言。

過去の記事を見直すと、書きかけのままになっているものもあるが、何を書こうと思っていたか今となっては思い出せないので、今後続きを書けるかどうかは、わからない。

ともかく、しばらくは、読書の上で折に触れて印象に残ったことをここに気軽にメモしていきたい。